SSブログ

1-2.医者になるって? [留学]

1-2.医者になるって?

そのよだれを垂らした身なりの整わない女の子をみて、理由はわからないがなんだがジーンとしてしまい、我知らず涙がにじんだ。相棒にばれないように気をつかったことを今も覚えている。その後の数週間はこの患者さんをなんとか理解しようと最大限努力したが、カルテを読んでも、教科書を読みこんでも、図書館で調べ物をしても、患者さんとどんなに長時間お話をしても、この人の頭の中で何が起こっているか、理解できた気はしなかった。強い不全感にさいなまれ、担当の先生と何度もお話しした。申し訳ないが私の理解はほとんど進まなかった。内科や外科領域なら、多くの場合、病気の原因とか発症の機序のようなものは大体わかっており、検査結果に基づいて診断基準を適用すれば診断が確定し、どんな治療が適切なのかガイドラインが教えてくれる。予後なども、疾患やその進行度によってある程度の予測を付けることができる、と言っていいかと思う。それを裏付ける科学的なデータも豊富だ。いくらでも手に入る。

しかるに精神科の疾患の場合は、そもそも病気の原因がわかっていないことが多く、診断は、診断基準らしきものは当時も既にあったが、担当医の主観が診断に反映される傾向が色濃く残っており、治療のほとんどは対症療法で、診断も治療も担当する医師によってものすごく違う、といった、科学としての客観性をやや欠いているかのように感じられる医療が行われていた。現在の精神医療も、そこから大きく変わることは無いように思うのだが、私が学生だった当時はその傾向がさらに強かったようだ。そんな背景も関係していたのだと思うが、私はすっかり考え込み、ついにはふさぎ込んでしまった。全然わからない。怠惰な医大生だった私はどうしたか?いきなりアポも取らずに一人で大学の医局に足を運んだ。不真面目と思われている自分がそんなことをするのは自分でも意外であったし、正直恥ずかしかった。しかし内的な不全感がそれをはるかに凌駕して、私の尻に蹴りを入れたようだ。それで私は実習終了後に精神科の医局に足を運んで先輩方にいろいろと相談し、山のような本をお借りした。ほとんどすべての人が、なぜか私には親切だった。医局の隅の空いている机を一つ借りて眠気覚ましの濃いコーヒーを秘書さんにもらい、貸していただいた本を片っ端から読んだ。しかし精神科の本はわけのわからない専門用語で満ち満ちており、読書は遅々として進まなかった。ものすごくつらかった。しかし週末も医局に通い詰めた。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。