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素晴らしい同僚たち 6. アメリカの研修医たち [留学]

素晴らしい同僚たち 6. アメリカの研修医たち

素晴らしい同僚たち、という表題で、思いつくままに好き勝手な内容を書きちらしている。忘れてしまう前に、書いておこうと思っているので、深く考えないでおつきあいいただけると幸いだ。今回は、アメリカの研修医のことについて、日本と比較しながら思いつくままにだらだらと書き連ねてみたい。

私が日本で精神科の研修を受けたころ、生活するのに十分な給料はいただけなかった。だから医者になった当初は、家族に援助を求めたり、貯金を崩したりして何とかしのいだのだが、当時は少しでも早くお金を稼げるようになりたい、と必死だったように記憶している。研修制度のシステムに問題があったと指摘しておきたい。日本の研修制度が新しくなってからは、研修医であっても最低限の収入は保証されてようになったようで、経済的に安定するため、安心して研修に励むことができるようになったのだろう。これは新しい制度になって改善した点の一例だ。もちろん、研修医なのに、制度の改善で最低限の生活は保障されるようになったのに、お金のことばかり気にするケシカラン奴も散見されるが、そういう奴はどんなところでもどんな時代にもいるわけで、気にしても仕方がない。研修医には、日本の将来の医療のために、また、彼ら自身の未来のために、惜しみなく働いて、勉強してほしいと強く願っている。

さて、アメリカの研修医の話だ。お金を中心としたちょっとシビアな話を書いてみたいと思う。

このブログの数少ない読者の方たちは既にご存知と思うが、アメリカでは医学部は大学院に相当するため(Graduated Schoolと称する)、医学校に行くこと自体がやや特殊かつ半分仕事のような感じのようだ。医学部は基本的には資格を取るための高度な専門学校的な側面を持ち合わせているのだが、特別に優秀な学生のために、MD・PhDコースというのがある。これは通常4年間で医学部を卒業するところを5年間以上(だったと思う)かけて勉強して、PhD(いわゆる博士号)とMDの両方を取るコースだ。MD/PhDコースに通っている、いわゆるエリートの学生さんは、学校からPhDコースで研究していることに対してお給料をもらっており、高―い高―い医学部の学費がほぼタダになっているらしい。収入と支出でプラスになるのかマイナスになるのかは確認していない。たぶん日本の自治医大や防衛医大のように、プラスになっているのだろう、と想像する。こういう人たちが将来大学に残ってアカデミックな仕事に就くのだろうと想像する。私が研修した大学病院ではそうだった。

日本においては、学位を取り終えた“ポスドク“というのは、学生のような職員のようなあまり恵まれないたちばにおかれることが多いように思われるのだが(失礼な話ではないか)、アメリカではポスドクというのはこれから独立した研究者になるという前提で、すでにして立派な職業であり、そうであるからには、きちんとした大学等の規定に従ったお給料が支払われるわけだ。話を戻すが、MD/PhDの生徒はまるでアメリカのポスドクのようなポジションが与えられているように、私の立場からは見えたものだ。青田刈りということなのか、将来の教授候補を育てるということなのか。実は何度か研究等を進めるために、医学部の内部に入り込もうと試みたが、受け入れが非常に悪かったためあきらめざるを得なかった。研究活動の幅を広げるだけではなく、本当のところ、授業に参加したり、学生さんと話をしたりしてみたかったのだ。だから本当のところはよくわからない。

MD/PhDのコースを様々な理由でやめる、ということになると、大変だ。それまでタダにされてきた、もしくはタダ同然であった莫大な学費を、自分でもしくは親が払わなくてはいけないのだ。多くの学生たちはあまり裕福ではないため、このオプション使うことは事実上不可能だ。それで必死に与えられた仕事をこなし、試験に合格して、なんとか卒業を目指すわけだ。コースをやめて、学費が払えなくなると退学するしかなくなり、だから莫大な借金を抱えることとなる。そういった何らかの理由で医者を育て上げるシステムからドロップアウトしてしまう人たちは、自殺したり失踪したりすることもあるようだ。なんともすさまじい話だ。

MD/PhDの話はこれくらいでやめておくが、普通の医学部の学生たちも、学費を借金や奨学金で賄っている人がほとんどらしい。一部裕福な親(多くは医者と思われる)をもつ学生は、良心が学費を払っていることもあるらしいが(実例を知っている)、それはあくまで例外なのだという。“何でも自分でやるのだ”というAmericanSpritも関係しているのかもしれない。だから学生は、銀行と頻繁に連絡を取り合って、“車が壊れたから買い替えていいか”“結婚にいくらかかるので、、、”などと、銀行の担当者にお金を使う(借金を増やす)相談を日常的にしている。研修医も同じようなことをしている。最初は何をやっているのかよくわからなかったが、自分も研修医を何年もやっているうちになんとなく話が分かってきた。日本とは全く異なったシステムがあるようなのだ。

学部を優秀な成績で卒業し、よい推薦状を何通ももらって、さらに医学部に入学するためにお金をため、CV(履歴書のことね)を充実させるためにアルバイトやボランティアなどやりつつ、銀行に話をつけて医学部に合格すれば、借金を増やしながらめでたく医学生になれる、というシステムがあるようなのだ。借金をした学生は、医者になる以外の道はないので、どんなことをしても大学を卒業しようとする。それが試験での不正や、教授と不適切な関係を持つ女学生などが出現する下地になっているのだと思われる。まあそれはいいとして、銀行は何も心配せず、求められるままにどんどんお金を貸せばいい。レジデントになれば、レジデンシーのプログラムが生活費をカバーするし、卒業すればローンでの返済が始まるわけだ。私がアメリカにいたころは、医学部を卒業するまでに1500万円前後の借金を持っている学生がほとんどだ、と聞かされた。レジデントをしている間は追加の借金が可能で、返済は猶予される。卒業と共に返済が始まるわけであるが、借金の利子は、借り入れたお金より多額になるのだと聞いた。多くの医学生やレジデントは結婚しており、子供を育てている人も珍しくないため、金銭的な背景はさらに複雑怪奇な様相を呈する、というのが実情なのだと思われる。なんだか恐ろしいシステムだ。しかしこのシステム(銀行が医師の教育を支援しつつ利益を得るシステム)が機能し、研修医が卒業して医師として仕事を始めることができる限りは、医師~銀行の間に、いわゆるWin-Winの関係が成立するわけで、銀行は高い利子を小さなリスクを侵すのみで回収し、医者になりたい人は、努力さえすれば、借金をしながら夢を実現することができるわけだ。アメリカにおける医者の社会的地位は高く(専門医の数をコントロールしたり、ホワイトハウスに対してロビー活動をしたりするなど、地位を保つために大変な労力が咲かれているようだが)、物価と比較して収入も高いため、このような道を通ってでも、医者になることは意味があるのだろう。

アメリカでは、まだ若いうちに事業などで一山当ててリタイヤし、その後の人生は貯金と年金で生活し、パーティーに明け暮れる、というのがアメリカンドリームの一つの典型なのだが(私は尊敬していた医師がこれをやったのを実際に見て失望したが、周りは羨むだけで見下げるようなことなく、文化の違いを身をもって感じた)、恐ろしいほど多額の借金をしながら独力で医者になることも、おそらくアメリカンドリームの一つなのだろう。

レジデンシーに入り込むときには、試験を沢山受けたうえで、全米を回ってレジデンシーに採用してもらうための面接を受けるのだが、“借金がいくらあるか”というのは、試験を受けに集まった研修医たちが好んでする話題の一つだった。私が怪しい英語で“オレ借金とかないし”というと、みんな苦々しい顔をして羨んでいたことをよく覚えている。そういったバックグラウンドを持っているため、研修医たちはレジデンシーを卒業するために何でもやる。死ぬほど勉強するし、雑用もいとわないし、いつもにっこりと笑顔を絶やさないし、指導医に対して“No”ということはほぼ絶対にない。弱い立場に立たされているのだ。私が研修をした田舎の大病院では、あまり競争は激しくなく、全体に割とFriendlyな雰囲気が漂っていた。脳外科の有名な教授にぼこぼこに(言葉で精神科医全般をひどく侮辱された)されたときなどは、精神科が科を上げて抗議してくれたりした。そんなこともないわけではないが、研修医が弱い立場に立たされていることがわかっていながら、いたぶるような指導教官もいた。我々が結託して、病院長にチクるようなことも可能ではあるが(実際に経験した、そのうち書くかも)、多くの場合、ただただ叩かれるのを我慢するしかない。一方で、まともな教官は、我々(私自身はほんとは違うのだが)が引くに引かれない、命がけのような立場にいることをわかってくれているので、自分がかつて通った道でもあるし、我々を何らかの理由で叱責したり追い詰めたりするときは、必ず逃げ道を用意してくれたものだ。アメリカの研修医を追い詰めるときは、気を付けないとヤバい。時に彼等が死んだり殺したりする、というのはそういう背景があるからだ、と理解している。

だから、一緒に“ヤバい橋”をわたった、レジデントたちの結束はものすごく強い、というのは理解がしやすいだろう。人によるとは思うが、医者同士が会うと、どこでレジデントをしたかといった話がよくなされるのもこういった背景があるからだと思う。同じプログラム出身だとわかった瞬間、ハグと握手の嵐、時にはキスも降ってくるのは、当然と言えよう。

主に医学部の学生の話に終始してしまった。今後も、思い出したことから、お金以外の面からも、アメリカのレジデントの話を、どんどん書いてゆこうと思う。

今回もキーボードの赴くままに書き飛ばしてしまったので、そのうち手を加えるかも。

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