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ある日の出来事 ふくよかで攻撃的なDr.A [留学]

ある日の出来事 ふくよかで攻撃的なDr.A



彼女は私がレジデントをしていたころは数年先輩で、気づいたときには既にチーフレジデントをしていた。大柄で、ひとことでいうとbuffaloのような体格をした、赤毛の目の大きな、背が高い人だった。仕事ができ、頼りがいがあり、大変いい先輩だと思って頼りにしていた。たまに教材を分けてもらったりして、すごくありがたかった。彼女は評判が良かったので、卒後教員として大学に残ることになったのだが、誰もが納得する人事だったと思う。

しかし権威ある立場になった彼女は突然人が変わってしまった。たまにあることだとは思うのだが、彼女の変わりようはものすごかった。文字通りジャガーチェンジ、見事な“豹変”というやつだ。ものすごく後輩たちに厳しいし、骨惜しみをしてあまり教えてくれないし、いつも大物風にふるまうし、とにかくとっつきにくい、難しい先生になってしまったのだ。大きな体を動かし、両手を振り回し、髪振り乱して後輩を怒鳴りつけるようになってしまったのだ、それも毎日のように。信じられなかった。私自身もこの先輩からの洗礼を何度も受けたことがあり、現場で散々怒鳴りつけられた後に長いながいメールが送られてきて、とてもここには書けないような叱責を受けたこともある。アメリカではそれまでそんなこと、そういった形での攻撃は経験したことがなかったので、本当にびっくりした。次は拳銃で撃たれるんじゃないかと思った。違う国にいるような気がしたものだ。日本だったらあり得るかな?

そんなある日、Dr.Aと一緒にインドから出稼ぎに来た統合失調症の患者さんをお世話する機会に恵まれた。あれは多分週末だったと思う。この患者さんはあまり英語が得意ではなく、インド系の方特有のthickな“R”の発音をされるのでCommunicationには大変苦労した。この人の自宅、つまりインドに電話をして、アメリカで医師をしている日本人である私が、奥さんとお互いに怪しい英語を操って情報を交換しあい、治療について相談したりしたのだが、そのことが現在の私の選択につながったことはその時には知る由もなかった。その件は別の記事にしようと思う。とにかくまあ結構頑張ってお世話をさせていただいたのだが、この患者さんのおかげで、私の心は救われた。頑張った甲斐があるというものだ。こんなことが起こった。

例によってDr.Aから必要以上のPressureをかけれらながら患者さんのケアをしたのだが、A先生と一緒に回診をしていた時に、患者さんがいった。
“先生、病院に行った方がいいよ”と。
統合失調症の患者さんなので妄想なのかな?と頭から大きな?を出しつつそのまま話を聞いたところ、彼はいい調子で言いつのった。
“アメリカはお金がある国で、食べ物は好きなだけ手に入る”
“食べ物はすごく安いしおいしい”
“太った人はたくさんいる”
“しかし太っているといっても限度がある”
”先生の太り方は異常だ“
“悪い病気なのかもしれない”
“たべものが悪いのかもしれない”
“たぶん病気だと思う”
“ここは病院なのですぐに医者にかかった方がいい”
立て板に水というやつだ。このあたりでDr.Aは真っ赤になって怒り出し、全身を震わせて“あたしこの患者もう診ない!”と走り去ってしまった。スタッフ全員体を震わせて笑いをこらえている。もう一人そのあたりにいた上級医、しかも女医さんは“Oh, A. Poor girl”とかいって気の毒がっていた。私はというと、おかしさにちょっとした喜びが加わって、涙を流しながら床に転がって全身をぴくぴくさせてしまった。立ち直るまでに数分かかったが、誰も咎めるような人はいなかった。おそらくこの話を聞いて喜んだレジデントがたくさんいただろう。私は復讐?が怖かったので言いふらしたりはしなかったけれど(本当です)。レジデント時代は言葉の問題が重く、何年も本当に苦労したが、あの日は最高に気分爽快だった。インドの人、ありがとう。

なんて言ってはいけないんだよね、本当は。


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