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2‐3.研修医ってわるくないかも [留学]

2‐3.研修医ってわるくないかも


精神科の初期研修は、なかなかハードルの高いものだった。公立病院で研修したため、指導医たちは多忙で時間がなく、早朝から時には深夜まで働きづめに働いていた。だから私の教育に割く時間がない、ということになる。簡単なインストラクションを与えられ、体系的な指導などはほぼ与えられないままに、ほぼ独力で患者さんを担当することになる。実際は、上級医たちは遠巻きにして、私のすることを温かく見守ってくれており、問題があるようならやさしく指導してくれたのだが、当時の私は余裕がなく、そのようなありがたい指導体制について気が付くことは無く、砂漠のようなところを一人で歩いているような気がしていた。

外来はある程度一人で診断や治療できる医師でないと務まらないので、まずは病棟、入院患者さんのお世話から、ということになるのだが、私は不安で不安で仕方がなかった。そうではあるが、同時に、オレはようやく精神科医になれるんだ、と、ずいぶんうれしく、興奮していた。早く一人前になりたいものだ、と強く願っていた。こんな文章を書いていると、当時の気持ちがありありと蘇ってくる。いま現在の初期研修医の人たちはどんなふうに考えているのだろう。興味があるなあ。

数名の患者さんを指導医とともに担当することになったのだが、これは簡単ではなかった。診断も、治療も、何を基準にどうやって決められているか不明瞭な部分が多く、何が正しく何が間違っているか、精神科を始めたばかりの自分には、判断のしようがなかった。一番怖かったことは -これだけは忘れようがないのだが- 患者さんを我知らず傷つけてしまうことだった。精神科の患者さんたち、それも入院する必要があるような人たちは、多くの場合、自分を適切に守ることができない。だから彼らに接触する私たちが、彼らの分まで気をつかって、精神的な負担をかけないよう、最大限の努力をする必要がある、と少なくとも私は考えていたし、今もそうだ。これは治療以前の問題で、精神科にかかわる全ての医療者が守るべき原則だと思っている。だから私は毎日朝早く出勤し、夜遅くまで病院に残っていることが多かったのだが(真面目ではあったが宴会にはまめに顔を出していたことを告白しておく)、内的には、病院で仕事をすることが怖くて仕方がなかった。医師として半人前の私が患者さんを傷つけてしまったらどうしよう、と。そんな私を救ってくれたのは、いつだって現場の看護師さんたちだった。

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