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3-2.精神科って楽しいかも [留学]

3-2.精神科って楽しいかも

私には当時、同期の医師がおらず、独力で何とか道を切り開くしかなかった。僅かな給料を割いて高価な専門書を手に入れ、何度も何度も読んだ。精神科のマニアックな専門書の場合、一冊手に入れるだけでも結構大変だった。当時はアマゾンなどという便利なものがなかったため、時間を作って専門店まで足を運んで買うか、大きな本屋さんに依頼して何週間もかけて取り寄せてもらうしかなかったのだ。しかも精神科の専門書は、部数が出ないので高価であることが多い。すぐに絶版になってしまい、再版されない名著も少なくない。だから独学で勉強するのも一苦労で、熱意とエネルギー、さらには行動力が必要だった。そんなふうにして苦労して手に入れた本を読みこんでみても、私にはこの特殊な分野に関する基礎知識と経験が絶対的に不足しているため、実際の治療の現場に勉強の成果を反映させるまでにはずいぶんと時間がかかった。もどかしかった。正直言って大変つらかった。

独力ではどうにもならないことを遅まきながら察した私は、自らの不明を恥じ、初心に帰ることに決め、先達に道を尋ねることにした。具体的には、当時同じ病院に勤務していた、自分が人柄に親和性を感じる(私よりはるかに優秀だが感受性がなんとはなしに似ている)先輩に相談した、ということだ。この先生は親切にも自分自身の指導者を私に紹介してくださり、結局私もその“先生の先生“にしばらく精神療法をご教示いただいた。涙が出るほどありがたかった。人の面倒を見るっていうのは、自分の分を分けてあげるということなのだなあ、と心から理解し、感謝した。柄にもなく謙虚になってしまった私は、それ以外にも、自腹を切って様々な勉強会に足を運んだり、本を読んだり、先輩に相談したり、勉強会を企画したりしたものだ。ありがたいことに、指導をお願いした先輩方は、みな一様に協力的であり、私の初歩的な質問に対してであっても、親切かつ丁寧に答えてくださったものだ。上記の先生以外にも、自分の通っている勉強会の席を譲って下さったり、なかなか手に入らない本をくださったりした方が何人もおられ、ありがたかった。精神療法以外の治療法、例えば薬物療法や電気刺激療法などは、やる気さえあればかなりのレベルまで独学が可能で、知識を蓄えておけば臨床の現場でそれを生かすことが可能だ。しかし精神療法だけはそうはいかない。地道に丁稚奉公のように知識と経験を積み上げないと、独り立ちにこぎつけることは出来ない。そんなこんなで、あっという間に数年が過ぎ去り、忙しいばかりの研修医生活も終わりを告げた。この後は精神保健指定医という一般の方から見るとかなり特殊な資格を取る必要があるのだが、先輩方に教えを乞い、方々に頭を下げてお力をお借りして、試験に合格すればほやほやの精神科医の出来上がりということになる。少なくとも私が研修生活を送った当時はそんな様子だった。一人前になった後は、やはり先輩方に教えを乞いながら、臨床経験を積んでトレーニングを継続するわけである。

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